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乳がん

〔乳がん〕

<どんな病気でしょうか?>

■おもな症状と経過

乳腺(にゅうせん)に発生するがんが乳(にゅう)がんです。ほかの臓器のがんのように食欲不振、痛みなどの兆候はほとんどなく、乳房(にゅうぼう)のしこりで発見されます。そのため、乳房を触ってしこりの有無を確認する自己検診も可能です。

しこり以外には、乳頭(にゅうとう)からの出血や乳汁分泌(にゅうじゅうぶんぴつ)、がん組織による乳房の皮膚にひきつれや、えくぼのようなくぼみができることがあります。がんの大きさ、病期→【表】の進行度によって、手術療法(術式)、放射線療法、化学療法、ホルモン療法のいずれかを選択するか、組み合わせるかなど治療方針が決定されます。

■病気の原因や症状がおこってくるしくみ

乳がんのできる乳腺は、エストロゲンなどの女性ホルモンと深いかかわりがあります。

エストロゲンが乳腺の細胞に影響を与え、細胞が分裂や増殖をくり返した結果、がん細胞になるという説もあります。

乳がん細胞は女性ホルモンの刺激によって活性化するため、女性ホルモンを抑える療法で補助的に進行を抑えることがあります。

また、妊娠や出産、授乳の経験がない人は発症しやすいといわれています。

■病気の特徴

40歳~50歳代の女性でよくみられ、ごくまれに男性にも発病することがあります。

→【表】



【よく行われている治療とケア】

◆病期に応じて治療法を選択する(手術療法、放射線療法、化学療法、ホルモン療法)

乳がんの治療方針は、がんの進行度、腫瘍のホルモン感受性の有無、閉経の有無、全身的な健康状態によって決められます。

◆手術療法では腫瘍の大きさなどによって術式(乳房温存術(にゅうぼうおんぞんじゅつ)、胸筋温存乳房切除術(きょうきんおんぞんにゅうぼうせつじょじゅつ))を選択する

乳房温存手術は胸筋温存乳房切除術と予後が変わらないとの臨床研究結果が報告され、広く施行されるようになりました。乳房温存術には、乳房扇状部分切除術、乳房円状部分切除術、腫瘤摘出術の3種類があり、いずれも乳房は切除しません。がんがどの大きさ以上だと乳房温存術と胸筋温存乳房切除術の予後が変わるかについての報告はなく、専門家の意見や経験によって決められているようです。

◆化学療法ではリンパ節転移の個数や腫瘍の大きさや組織型などによって行うべきかどうかを検討する

化学療法の内容(プロトコール)ごとに臨床研究が行われ、効果が確認されています。

◆手術後も長期にわたり経過観察を行う

手術などの初回の治療を終えたあと、10年以上経過してからの再発例が多数報告されています。したがって、長期の経過観察が必要ですが、何年経過観察が必要かということについては臨床研究による明確な結論はまだ出ていないようです。

◆早期発見のため、40歳以降は年1回、定期検診を受ける

現在わが国で行われている検診方法には①医師による問診・視診・触診、②マンモグラフィー(乳腺に特化したX線撮影法)、③超音波検査があります。

わが国では①の方法が長らく行われてきましたが、平成10年老人保健法の通達により、②のマンモグラフィー併用検診の導入が進んでいます。アメリカでは40歳以上ではマンモグラフィーによる有効性が認められていますが、30歳代の検診の有効性は認められていません。超音波検査は、異常が発見されてからの精密検査には有効ですが、スクリーニング検査における有用性は認められていません。



【よく使われている薬】

◆化学療法(CA(E)F療法)を行う

・エンドキサンP(シクロホスファミド)+アドリアシン(塩酸ドキソルビシン)+5-FU(フルオロウラシル)

CA(E)F療法(シクロホスファミド、塩酸ドキソルビシン、フルオロウラシルの併用)を受けた集団と、それ以外の集団を過去にさかのぼる形で比較した臨床研究で有用性が確認されています。転移のある乳がんの初回治療に関して、CMF療法(シクロホスファミド、メトトレキサート、フルオロウラシルの併用)より有効であったとする複数の比較研究を統合した非常に信頼性の高い臨床研究(システマティックレビュー)があります。

◆タキサン療法を行う

・タキソテール(ドセタキセル水和物)

転移のある乳がん患者で、初回の化学療法が無効となった例に対し用いられる薬剤(セカンドライン治療)として、ドセタキセル水和物は、他剤と比較し有効性が確認されているという非常に信頼性の高い臨床研究があります。

◆経口5-FU療法

・ユーエフティ(テガフール・ウラシル配合剤)

テガフール・ウラシル配合剤は日本で開発された薬剤で、日本での使用経験が豊富です。マイトマイシンC、クエン酸タモキシフェンにテガフール・ウラシル配合剤を追加して、効果の上乗せがあったという信頼性の高い臨床研究があります。

・フルツロン(ドキシフルリジン)

早期乳がんの患者さんで、手術単独群とドキシフルリジンを6カ月間内服した群を比較した信頼性の高い臨床研究では、はっきりした差がみられなかったと報告されています。専門家からも支持されていません。

◆抗エストロゲン療法

・ノルバデックス(クエン酸タモキシフェン)

ホルモン感受性の腫瘍については、術後の補助療法として、年齢、閉経の有無、リンパ節転移の有無、化学療法併用の有無にかかわらず有効だったという複数の非常に信頼性の高い研究があります。

・フェアストン(クエン酸トレミフェン)

非常に信頼性の高い臨床研究によって、術後の補助療法でクエン酸タモキシフェンと比較し同等の効果、安全性が確認されています。



【総合的に見て現在もっとも確かな治療法】

◆病期に応じて治療を選択

比較的小さな乳がんでは乳房温存療法が、ある程度大きくなった場合には乳房切除術に加えて抗がん薬による化学療法が、がんの広がり方や体力、併発疾患の関係で手術を行わないほうがよいと判断された場合には化学療法や抗エストロゲン療法が選択されます。

◆現在は乳房温存療法が一般的

乳房温存療法は、局所的にがんの部分のみ切除したあと、放射線療法や化学療法、ホルモン療法を適宜組み合わせて治療するもので、乳房は切除しません。温存手術には、乳房扇状部分切除術、乳房円状部分切除術、腫瘤摘出術があり、がんの進行度や種類によっていずれかが選択されます。

従来のように乳房全体、しかも大胸筋などを含め広い範囲を切除した場合と比べて、生存率や期間に差がないこと、美容面も含めて患者さんの生活の質(QOL)もすぐれていることなどから、世界的に乳房温存療法が行われるようになってきました。それが可能になった背景には、放射線療法や抗がん薬、抗エストロゲン薬などの有効性が高まったことがあります。

◆副作用が少なく効果の高い抗がん薬を患者さんごとに判断する

抗がん薬には、CA(E)F療法やユーエフティ(テガフール・ウラシル配合剤)など、抗エストロゲン薬ではノルバデックス(クエン酸タモキシフェン)やフェアストン(クエン酸トレミフェン)などの有効性が質の高い研究で確認されています。副作用のできるだけ少ないものを、患者さんごとに判断する必要があります。

◆欧米と同様の効果的な検診方法の確立を

わが国では、乳がん検診が以前より行われていますが、本当に乳がん患者さんの予後を改善するうえで役立っているのかは、科学的な方法で検証されてきませんでした。その点、欧米では、検診を行おうとする場合には、その検診を受ける人々の集団と受けない人々の集団を厳密に分けて、何年間か観察するという厳密な科学的方法で検証してきました。

その結果、40歳以上での女性では、マンモグラフィーでの検診を受けることが乳がんの早期発見につながり、死亡率や生存期間の延長につながることが示されています。

欧米と比べて、わが国の女性は乳がんの発症率がそれほど高くはないのですが、最近増加が顕著ながんでもあり、欧米と同様の予防的な対処の実現が待たれます。